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30のお題
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JET戦兵―モノカキさんに30のお題-09




2004/2/23(月)
   冷たい手

「手の具合があまりよくないのです」

そう言って差し出された手を椅子に腰掛けたまま片手で受け、私は顔を近づけた。とても血の通わぬ物とは思えぬ質感の手の先、優しげに白く、神経質そうに長いその指の先の皮膚は、無残にぼろぼろになっていた。

「ああ、関節を直した時にボンドが大分はみ出していたのだね。ボンドの質も良い物ではなかったから、爛れてしまったか」

その手にくっつかんばかりに近づけていた顔を上げ、私は目の前に立つ彼の顔を見上げた。
穏やかな笑みを湛えた切れ長の目が、優しげに静かに瞬きを繰り返す。
しかしその瞬きの動きもひどく不自然でぎこちなく、それが彼の優しげな顔立ちにはそぐわず痛々しくて、私は眉を顰め目を逸らした。
目と手だけではない。見える部分、見えない部分、彼の体にはいたる所に欠陥がある。

いっそ彼がその欠陥にふさわしく木偶の坊であれば気にもならないのに、静かに微笑むその様子は私よりも知性的で、優美で、慈愛に満ちて見えるので、その痛ましさは見る度に私の胸を抉るのだ。彼が本来あるべきその優美さを痛ましく損ねているのは、偏に私の技術と金銭と時間、そして情熱が足りないせいだ。

痛ましさと罪悪感に耐えかねて、私は彼を抱きしめ泣きながら謝った。すまなく思うのならば黙ってそれを贖う行動をとれば良い。謝るという行為はそれをしたくないが為の、相手から赦しの言葉を引き出そうとする卑怯な行為であると理解したうえで、私は泣きながら謝った。

「ごめんな。私が不甲斐無いばかりにおまえをこんな状態にして。おまえの全ての傷も欠陥も直してやれればよいのにな」

自分の卑劣さに耐え難い自己嫌悪を覚えながら、それでも彼の赦しの言葉を待って、私は彼を抱きしめ続けた。
それを見透かすかのように、彼は変わらぬ静かな笑みで穏やかに言った。

「全部でなくても良いです。見える部分だけで構いませんから」

私は冷えた気持ちで、彼がいつか私の目を、指を、欠陥のない私の体のパーツをよこせと言いだしはしないかを恐れながら、彼の背に回した手が冷たくなるほど指先に力を込め、無言でただ抱きしめ続けた。