遊園地があった。
高い塀に囲まれて、いつも中から楽しげな音楽や笑い声を響かせる遊園地。まだ小さかった僕は、そこへ入る為の自由になるお金もなく、いつも塀の側に立って楽しげな音に耳を澄ませていた。音だけで想像する未知の世界は僕の中で無限に広がって、いつも僕をどきどきさせた。毎日飽きることなくそうしていた僕に、ある日一人の紳士が声を掛けた。
「遊園地は好きかい」
僕はもちろん、大好きだ、と答えた。紳士は嬉しいような悲しいような、よくわからない顔をして去っていった。
少し大きくなった僕は、自分でお金を稼ぐようになって、いつでも遊園地に入れるようになった。話にしか聞いた事がなかったアトラクション、音だけで想像していた乗り物、それら全てが目の前にあった。夢中になって、目に付く物を片っ端から遊んだ。一日で遊び尽くせるはずもなく、週末になる度僕は遊園地に通った。
通いつめて、さすがに段々飽きてきた。入るまでは無限の広がりを持っていた遊園地は、無限ではなくなってしまった。どの乗り物も同じところをぐるぐると回るだけで、僕をどこかへ連れて行ってはくれない。終わりのない夢の世界に思えていた遊園地は、時間になると事務的なアナウンスが流れ皆を締め出してしまう。そしてしばらく後にはくたびれた姿の従業員がぞろぞろと出てくる。そこは、隔絶された夢の世界などではなく、外の世界と一続きの現実の世界だった。
遊園地で遊ぶ事には飽きてしまった僕だったが、遊園地自体に飽きたわけではなかった。僕ならもっとこのアトラクションを楽しくできる。僕ならもっとこの乗り物を刺激的にできる。僕ならもっと、遊園地を夢の世界に近づけることができるはず。僕の興味は、遊園地で遊ぶ事から遊園地を作り運営する事へと移っていった。
わからない事だらけの手探り状態だったけれど、伊達に今まで遊園地で遊び倒してはいない。遊園地に人が望むものを、僕は誰よりもわかっているはず。頭の中にある理想を現実の形にする為、僕は遊園地作りのノウハウを貪欲に学んだ。学ぶべき事、試すべき事は山ほどあって、それは頂上の見えない無限の旅に思えた。
そうして出来上がった僕の遊園地。徐々に遊びに来る人も増え、日に日に賑わっていった。それでも僕の遊園地作りは終わらない。来園者の様子を観察したり、アンケートをとったりしては、飽きられないよう常に手を加え続けた。そうして学べるノウハウは全て学んだし、新しい試みも沢山やった。何をどうすればどうなるのか、いつしか僕には見えるようになっていた。遊園地作りは最早無限の旅ではなくなってしまった。
遊園地で遊ぶ事にも、遊園地を作る事にも飽きてしまった。こんなに遊園地が好きなのに。好きだから夢中になって知ろうとし、全て知り尽くしてしまって飽きてしまった。夢中にならなければ、好きにならなければ、僕は一生遊園地に飽きる事はなかったのだろうか。
ぼんやりと遊園地の周りを歩く僕の視界に、一人の少年が映った。塀の側に立って、夢中で中の音に耳を澄ませている。僕の遊園地から聞こえる賑やかな音に。僕は少年に声を掛けた。
「遊園地は好きかい」