「はじめまして」
少し迷った末、無難にそう件名欄に記入する。自分が大好きな作品を数多くネットで公開する人に、初めて送るメール。自分がどれほどその作品を楽しんだかをどうしてもその人に伝えたくなった。そして、その素敵な作品を生み出す素敵な人と、できれば友達になりたいと少女は願った。そして、もし憧れの人から返事を貰えたなら、今の自分の空虚さを埋められるような、そんな気がして少女は祈る思いで送信ボタンを押した。
「はじめまして」
それは自分の作品に対する感想メールだった。自分の作品を彼女がいかに楽しんだかを時に遠慮がちに、時に熱っぽく綴ってあった。嬉しかった。その嬉しさが覚めやらぬうちに少年は返事を書いた。書き上げてから読み返してみて、嫌になって全部消した。何を馬鹿みたいに浮かれた返事を書いているのだろう。彼女が興味があるのは自分の作品であって自分ではない。そして、自分がどんな気持ちであの作品を作ったのか彼女は知らない。誰にもわからない。
少女は一日に何度もメールチェックをする。返事は来ない。寂しい。寂しい。寂しい。寂しさがピークに達した時、一通のメールが届いた。待ち焦がれた憧れの人からの返事。逸る気持ちを抑えて開封する。内容は、ほんの3行ほどだった。メールを貰った事に対する事務的なお礼。これからも頑張ります。そして署名。逸り高まっていた気持ちが一気に深く沈みこむ。何を期待していたのだろう。馬鹿みたいだ。数多い閲覧者のうちの一人に過ぎない自分が、管理人と友達になれると思うなんて。
少女からの返信はなかった。いつものことだ。もう慣れた。毎日届くたくさんの「はじめまして」のメール。そしてそれっきり。皆が興味があるのは自分の作品であって自分自身じゃない。自分がどんな気持ちで作品を作っているかなんて誰にもわからないし、誰も興味なんか無い。寂しい。寂しい。寂しい。寂しさを少し埋められる気がして、いつも共感を抱く憧れのサイトに思い切ってメールを出した。
「はじめまして」
毎日届く尋常でない数のメール。その殆どの件名は「初めまして」。広告メールやウイルスメールも多く混じっている。返事は出さないと公言しているし、今は見ず知らずの人から届くメールを読みたい気分じゃない。少年のメールはたくさんの「はじめまして」に埋もれて捨てられた。メールチェックを終えた青年は、恋人と別れた寂しさを紛らわせようと、見知らぬ女性にメールを書く。
「はじめまして」
きっと返事は返ってこないだろう。そう思いながら彼は送信ボタンを押す。