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作り話
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JET戦兵―作り話




2003/2/27(木)
   小鳥

光射さぬ真っ暗な部屋。自分の指先さえ見えぬ真っ暗闇。いつからそこにいるのか、少女は自分でもわからなくなっていた。 かつては毎日姿を現す男がいた。男は毎日現れては、少女の青い瞳を覗き込む。

「私を、見ろ」

少女は目を伏せ、長い睫毛の下に青い瞳を隠す。毎日、同じ事の繰り返し。ある日男はとうとう諦めた。

「愚かな娘だ」

そう呟くと男は部屋を立ち去った。その日以来少女が男の姿を目にすることはなくなった。

誰もいない真っ暗な部屋。自分の指先さえ見えぬ真っ暗闇。少女は何日も一人で、人形のように椅子に腰掛けて過ごした。

ある日、少女は一人ではなくなった。どこからか迷い込んだ一匹の小鳥。翼に傷を負った小鳥が少女の膝に落ちてきた。何も見えぬ真っ暗闇なれど、暖かく震えるその感触は確かに小鳥。 毎日自分の食事を分け与え、寒い夜には手で押し包み暖めた。

「早く傷が治るとよいね」

少女は小鳥に語りかける。

「傷が治ればおまえは自由に飛べるんだ」

小鳥はみるみる元気になった。少女の手の中小さな翼をばたつかす。

「さあ、飛んでお行き!」

少女は暗闇の中両手を高く差し伸べる。 小鳥は不器用に羽ばたいて、か細い足で少女の掌を力いっぱい蹴ったのだ。

けれど、小鳥は飛び立たなかった。翼の傷は酷いもので、傷が塞がっても飛ぶことは出来ぬほど。小鳥は少女の掌から、膝の上に転げ落ちただけだった。 少女はそっと両手で小鳥を掬い上げる。

「どうしたの?ほら、早く飛んでお行き。おまえは自由なんだよ」

勢いを付けて両手を高く上へと伸ばす。その勢いで小鳥は宙に飛び出して、そして床へと落下した。キイキイと鳴く声を頼りに暗闇の中少女は小鳥を拾い上げる。

「ちゃんと飛ばなきゃだめじゃないか。おまえは自由なんだ。さあどこまでも飛んでお行き!」

少女は何度も何度も小鳥を放り上げる。

「さあ、飛んでお行き!」

何度も床に落下した小鳥は、キイキイ鳴く声さえ小さく弱々しくなっていた。少女はそっとその暖かく小さな塊を拾い上げる。随分ばさばさになってしまった羽毛に頬を寄せて、震える声で呟いた。

「いやだよ。いけないんだ。私と同じじゃいけないんだ。おまえは自由に飛び立たなきゃあ」

けれど小鳥はうずくまったまま。

「飛び立てない翼なんて、いらない」

少女は小さくそう呟いた。

「私を映さぬ瞳などいらぬ」

最後に男の姿を目にした時に彼が言った言葉が、少女の脳裏に蘇る。 かつて青い瞳が納まっていた二つの洞穴から流れる、暖かい感触。それが無色透明なのか、赤い色をしているのか、少女には知る術は無かった。

明るい部屋、いつものように男が食事を運んでくると、翼のもげた小鳥を赤く染まった手で握り締めて、少女がいつものように椅子に腰掛けていた。